中高年男性の方で、「なんだが調子悪い」「のぼせたり汗が出たりする」「怒りっぽくなった」「眠れない」「性的能力の衰え」といった悩みをお持ちであれば、その症状は男性ホルモン(テストステロン)の低下による「男性更年期障害」の可能性があります。近年、テレビや雑誌でも取り上げられ「男性更年期障害」に対する社会的関心が高まっています。
更年期障害=女性に起こるもの というイメージがあるかもしれませんが、男性にも更年期症状は起こり「男性更年期障害」もしくは「加齢性腺機能低下症(Late Onset Hypogonadism Syndrome: LOH症候群)」と呼びます。
症状は3つの要素に分けられ、関節や筋肉の痛み、筋力の低下、発汗、疲れやすさや行動力の減退、睡眠の悩み、記憶・集中力低下などの「身体症状」、いらいらする、神経質になった、不安感、ゆううつな気分などの「精神症状」、性欲・勃起力の減退といった「性機能関連症状」があります。
男性更年期障害は、医療機関で検査を行い適切な治療を受けることにより症状の軽減が期待できます。「もう歳だから……」と思っていても、不調やつらい症状が続く場合には、一度医療機関で男性ホルモン値を検査されることをおすすめします。
男性ホルモンとは
男性ホルモンにはいくつか種類がありますが、代表的なホルモンとして「テストステロン」があります。テストステロンは主に睾丸(精巣)の中で作られ分泌されます。男性ホルモンというと、性機能や筋骨隆々といった「男らしさ」を作るイメージがあるかもしれませんが、それだけでなく次のような役割を担っています。
- 骨格・筋肉の成長促進
- 性機能(勃起・射精など)
- 排尿機能
- 精子形成の促進
- 糖代謝や脂質代謝に影響を及ぼし内臓脂肪を抑える
- 骨髄での造血作用
- 動脈硬化の防止
- 認知機能(判断力・記憶力など)
つまり、男性ホルモンを維持することは、中高年男性の「健康を守るカギ」となります。
男性更年期障害の原因
男性更年期障害の原因は「加齢に伴う男性ホルモン分泌の減少」です。男性ホルモン分泌量の減少度合や時期には個人差が大きく、早い方では30代からで40代以降ならどの年代でも起こります。
女性の更年期障害は「閉経(平均50歳)前後の約10年」と期間に区切りがあり閉経後5年ほどで落ち着くのに対し、男性の更年期障害は「40代以降の幅広い年齢」で起こるという違いがあります。
男性では中年以降に男性ホルモンの分泌は緩やかに減少していきますが、70代以降になっても分泌は続きます。実際に体内で活躍する活性型男性ホルモン(遊離テストステロン)は、20代でピークとなってから減少し40代に入ると急に減少していくので、男性更年期障害は、40代以降にいつでも起こり得る状態で終わる時期が決まっていないという特徴があります。
一般的に男性更年期障害が現れる40代~60代は仕事、家庭、プライベートと忙しく、ストレスが多い時期となります。主な原因は「男性ホルモン分泌量の低下」ですが、それ以外にも以下のような様々な要因が絡み合うことで、男性更年期障害が起こると考えられています。
- 加齢に伴う身体機能の低下
男性ホルモンによって肥満が抑えられていたので、分泌量の低下と共に内臓脂肪が増え生活習慣病リスクが高まりやすくなります。 - 仕事・人間関係・金銭的負担・プレッシャーなどによる「ストレス」の影響
仕事や職場での人間関係、子どもの進学、配偶者、親の介護、家のローンなどの金銭的負担などによるストレスは、男性ホルモンの分泌に影響を及ぼします。 - 性格
几帳面、真面目、責任感が強い、神経質、完璧主義、運動不足、ストレスをためやすい、という傾向がある方に男性更年期障害が出やすいとされています。
男性更年期障害の検査
血液中のテストステロン値は、日内変動(一日の中で数値が変動する)があり、正確な診断には午前中の採血が必要となります。当院では午前11時までに空腹時での採血とさせていただいています。採血の内容にもよりますが、初診時には6,000~8,000円かかります。
①問診
身体・精神・性機能の3つの要素の自覚症状や症状の強さ、既往歴(高血圧、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸などの有無、)、排尿に関する問診を行います。
※精神症状が強いと考えられる場合には、心療内科やメンタルクリニックの受診をおすすめしています。
②尿検査
炎症や潜血の有無、尿蛋白、尿糖をチェックします。
あらかじめ採尿することにより、のちの診察で残尿をチェックします。
③採血(血液検査)
男性ホルモン(テストステロンと遊離テストステロン)値を調べます。
- 遊離テストステロンは自費になります。
前立腺腫瘍マーカーとして、PSAを検査します。
必要に応じ甲状腺機能、血糖、脂質、赤血球、肝機能、腎機能などの検査を追加します。
最新の健康診断の結果をお持ちいただければ不要な検査は省略できます。
採血結果が出るまで1週間ほどかかります。
④診察・超音波検査
- 睾丸の触診
男性ホルモンの低下の原因となる精巣の萎縮がないかチェックします。 - 肛門からの前立腺触診
- 経直腸超音波検査
残尿の確認、前立腺容積計測を行います。
前立腺肥大の程度によってはホルモン治療ができない場合があります。
前立腺腫瘍マーカーが高い場合や 前立腺肥大による排尿症状が強い場合は専門医(泌尿器科)の受診をおすすめしています。
男性更年期障害の診断
臨床症状と「テストステロン」「遊離テストステロン」の値から総合的に診断します。
- テストステロン 250ng/dL未満 もしくは 遊離テストステロン7.5pg/ml未満
男性更年期障害、LOH症候群と診断し、ホルモン補充療法が可能です。(保険診療) - テストステロン 250ng/dL以上 もしくは 遊離テストステロン7.5pg/ml以上
治療の副作用を治療の有用性が上回ると判断する場合に、ホルモン補充療法が可能です。(自費診療)
男性更年期障害の治療
当院では男性更年期障害の治療として、ホルモン補充療法、漢方薬、ED治療(PDE-5阻害薬)、プラセンタ注射に対応しております。男性更年期症状は個人差が大きいため、症状に合わせて複数の治療法を組み合わせて治療を行っております。心身共に快適な更年期の過ごし方を一緒に考えていきましょう。
ホルモン補充療法(TRT)
治療の中心となるのは男性ホルモン注射による「ホルモン補充療法」で2~4週間に1回を目安に筋肉注射を行います。
※男性ホルモン注射(エナルモンデポー)
現在、保険診療可能なホルモン治療は「注射のみ」です。
男性更年期障害の診断が付いた方は、保険診療3割負担で1回600円程度です。
自費診療では1回2,200円になります。
【治療できない人】
- 前立腺がん
- 男性乳がん
- 多血症
- 重度の肝機能障害・腎機能障害
- うっ血性心不全
- 重度の高血圧
- 睡眠時無呼吸症候群
【副作用】
年齢や既往に応じ、ホルモン補充療法開始後1年は副作用がないか経過を慎重にみます。
起こりうる副作用としては以下のものがあります。
- 多血症
赤血球が多くなる病気で血栓症のリスクが増加します。
定期的に採血をして副作用を確認しながら、治療を行います。 - 造精機能障害
精子形成が抑制されますが、ホルモン補充療法を中止すると平均6か月~1年で回復します。 - 皮膚障害(にきび・脂性肌)
3割に認めますが中止後、半年以内に改善します。 - 肝機能障害・女性化乳房
まれに起こるとされています。 - 血管系への影響
リスクに関してはいまだ議論の分かれるところです。
【治療期間】
ホルモン補充開始後は3か月ごとに治療効果判定を行い、治療継続するかを判断します。症状が改善するまでの期間は臓器ごとに異なります。性機能症状は、治療開始から3か月以内の改善が期待できます。治療の継続・開始については相談して決めていきます。
漢方療法
ホルモン補充療法を行えない方では、自然生薬由来の漢方薬が効果的なことがあり、ホルモン補充療法に併用することも可能です。ただし、効果が現れるまで時間がかかり、体質に合わなければ効果を実感できないこともあります。
男性更年期障害治療でよく使われる漢方薬には、次のようなものがあります。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
体力・気力が衰えている人向けです。 - 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
のぼせがちな人向けでイライラを落ち着かせる作用があります。 - 八味地黄丸(はちみじおうがん)
性機能の衰えや頻尿がある方におすすめです。
PDE-5阻害薬の処方(自費診療)
男性更年期障害治療の選択肢として「PDE-5阻害薬」もあります。PDE-5阻害薬はED治療薬として使われていますが、男性更年期障害に対するPDE-5阻害薬の使用では健康保険の適用が認められていないため「自費診療」となります。
プラセンタ注射(自費診療)
男性更年期障害治療の選択肢として「プラセンタ注射」もあります。男性更年期障害に対するプラセンタ注射は、健康保険の適用が認められていないため、「自費診療」となります。
男性更年期を快適に過ごすためのポイント
加齢に伴うテストステロン値の低下は、中高年男性であれば、どなたにでも起こります。
更年期を少しでも快適に過ごすためには、生活習慣の見直しなど「セルフケア」が大切です。
しっかり睡眠を取る
テストステロンは睡眠中に分泌され、早朝の分泌量が最も多くなります。睡眠不足はテストステロンの分泌低下を招き、男性更年期障害が発症しやすくなります。熟睡は体力の回復だけでなく、ストレス軽減など精神面の回復にも繋がるため、しっかり睡眠時間を確保して、質の良い睡眠を取りましょう。
適度に運動する
ウォーキングやジョギングなどの運動を適度に行うと、脳や身体に刺激が加わりテストステロンの分泌が増えます。定期的な運動は気分転換となり、ほどよい疲れから睡眠が取れるようになります。すっきり目覚め、朝日を浴びることはうつ症状の改善に効果的です。
栄養バランスを考え、テストステロンを作る食材を意識的に摂る
バランスのよい食事は生活習慣病の予防にもなるため、緑黄色野菜や魚料理を積極的に取り入れて、栄養素の偏りが起こらないように心がけましょう。
男性ホルモン(テストステロン)を作る食材には、次のようなものがあります。
- タンパク質と含硫化合物を一緒に食べると、テストステロンの産生が増えやすくなります。(例)肉+ニンニク+玉ねぎなど
- タンパク質 : 類、卵、魚、乳製品など
- 含硫化合物(アリシン) : にんにく、ニラ、玉ねぎなど
- 脂質 : アボカド、赤身肉、オリーブオイル、アーモンドなど
禁煙
非喫煙者と比べて、喫煙者の男性更年期障害の発症リスクは、20年の喫煙で約2倍、60年では6倍以上となっています。禁煙は発症リスクの低下に繋がります。
サプリメント
男性ホルモン分泌を増やす成分の入ったサプリメントを服用することもおすすめです。
次のようなものがあります。
- サプリメントの摂取では、用法用量を守って服用することが大切です。
特にお薬を服用中の方は飲み合わせの問題がありますので、医師・薬剤師にご相談の上、摂取すると良いでしょう。
- 亜鉛
牡蠣などに含まれる成分です。性機能改善に効果的です。 - マカ
精力剤の成分として有名な「アルギニン」をはじめ、必須アミノ酸、鉄分、ビタミン、カルシウムといった豊富な栄養素が含まれているため、ホルモンバランス・自律神経を整える効果があります。また、血流が良くなることによる性機能の改善のほか、集中力の向上、疲労回復、滋養強壮などにも効果が期待できます。 - セレン
身体の酸化を防ぐ栄養素で、体内で生成することのできないミネラルのひとつ。魚 類(かつおぶしなど)、香辛料(カラシなど)に多く含まれます。 - トンカットアリ
マレーシアのハーブ。 - ビタミンD
男性ホルモンに似た構造で、ステロイドホルモンとも呼ばれます。