「おりもの」は生理周期によって少しずつ変化していますが、おりものの量・色・においがいつもと違う場合には、細菌やカビ(真菌)の感染、もしくは性感染症を引き起こしている可能性があります。

一方、外陰部にできものや異常が現れた場合には、外陰の皮膚トラブルまたは性感染症の可能性があります。

おりものの異常

「おりもの」とは子宮や腟で作られる分泌物で、「帯下(たいげ)」とも呼ばれます。

おりものに異常があるときには、問診、おりものの視診・顕微鏡検査・培養検査などを組み合わせて診断します。

また、おりもの異常に対する治療では、腟錠(膣に入れる坐薬)、軟膏・クリームなどを症状に合わせて使用します。

代表的なおりものの異常には、性器カンジダ症、細菌性腟症、トリコモナス腟炎、萎縮性腟炎(いしゅくせいちつえん)、クラミジア頸管炎(くらみじあけいかんえん)、淋菌性頸管炎(りんきんせいけいかんえん)などがあります。

性器カンジダ症(カンジダ外陰腟炎)

「外陰腟カンジダ症」とも呼ばれ、女性によくみられます。外陰部や腟内に常在しているカンジダ(真菌・カビの一種)が増えて起こります。1~2週間の治療で9割は治りますが、再発しやすいのが特徴です。男性はかかりにくいですが、亀頭包皮炎の原因になることがあります。

<性器カンジダ症の誘因>

  • 抗菌薬内服 
  • 妊娠
    妊娠中は性器カンジダ症になりやすくなります。
  • 糖尿病 
  • ステロイド・免疫抑制剤・抗がん剤・放射線治療後
  • ストレス・疲労・消耗性疾患
  • 風邪
  • 通気性の悪い下着の着用
  • 原因不明のことも多い
【 症状 】

おりものの増加(白色のカッテージチーズのようなおりもの)、外陰部のかゆみ、発赤(赤み)、むくみ、ヒリヒリ感、痛み

【 診断 】
  • 外陰部の肉眼的所見、特有のおりもの
  • 鏡検おりものを顕微鏡で観察します。
    ※カンジダの量が少ないと、診断できないことがあります。
  • 培養
    性器カンジダ症を疑うが、鏡検ではっきりしない時などに検査します。
    ※結果まで1週間かかります。カンジダの種類や治りやすさが分かります。
【 治療 】

局所の清潔・安静を保ちます。せっけんは皮膚や粘膜を刺激し、かえって症状を悪化させることがあるので、ぬるま湯でさらっと流しましょう。通気性のよい下着を使用し、症状が良くなるまで性行為は避けましょう。

なお、治療薬には腟錠(腟坐薬)、クリーム、内服薬があります。

  1. 腟錠(腟坐薬)による治療
    「週1回挿入タイプの腟錠」または「1週間連日挿入タイプの腟錠」が選べます。
    効果がなければ、追加の治療を行います。
  2. クリームの塗布
    抗真菌剤のクリームを1日2~3回塗布します。
    かぶれ・ただれのある時は、ステロイド入りのクリームも同時に使用します。
  3. 内服薬
    1回だけ内服するお薬です。妊婦や授乳している方は使用できません。
    保険診療上、腟錠やクリームと同時に処方することができません。
    ※カンジダは外陰部・腟内・口腔内・消化管内に常在します。
    検査でカンジダが陽性でも、症状がなければ治療の必要はありません。
    ※性交による感染は5%程度で、パートナーの検査や治療は通常必要ありません。
    ただし、パートナーにもかゆみなどの症状があるときは、検査や治療が必要なことがあります。
    ※再発性外陰腟カンジダ症(recurrent vulvovaginal candidiasis:RVVC)年間4回以上再発を繰り返すとき。薬剤の種類を変更しながら治療します。

   

細菌性腟症

腟内は無菌状態ではなく、腟内細菌叢といって善玉菌(乳酸杆菌、ラクトバチルス)と悪玉菌がバランスを保っています。腟内の善玉菌が減り、複数の悪玉菌が増えた病的状態が細菌性腟症です。半数は無症状で性交の経験がない方や高齢の方にもみられます。なお、妊娠中は流産・早産・破水のリスクが高まるため、積極的な治療を行います。

【 症状 】

 おりものの増加、におい(生臭い感じ)、不正出血、下腹部痛、

【 診断 】
  • 特有のおりもの
  • 鏡検
    おりものを顕微鏡で観察します。
  • 腟細菌培養・グラム染色
    結果まで1週間かかります。
【 治療 】
  1. 腟錠(腟坐薬)
    フラジール腟錠を1日1回1錠、7日間ほど腟内に挿入します。
    ※デリケートゾーンの洗いすぎやビデの使いすぎは善玉菌が流され、腟内の細菌バランスがくずれてしまうので注意しましょう。
  2. 内服薬
    フラジール250mg錠を1回2錠、1日2回7日間内服します。
    ※内服中はアルコールの分解が遅くなり、腹痛や嘔吐、顔が赤くなるなどの副作用があらわれることがあるため、内服中~内服終了後3日は飲酒を避けましょう。
    ※内服薬は、妊娠3か月以内の服用はできません。
    ※内服中の授乳は、避けてください。

トリコモナス腟炎

腟トリコモナス原虫(肉眼的には見えない寄生虫の一種)が原因です。性行為での感染のほか、浴槽・便座・タオル・下着などからの感染もあるため、幅広い年齢層の女性に発症します。性交経験のない女性や幼児も発症することがあります。

【 潜伏期間 】

1~3週間。症状がなければ感染時期は不明

【 症状 】
  • 女性
    20~50%が無症状です。3割が6か月以内に症状が現れます。泡状で黄色~黄緑色、悪臭のあるおりものが増加したり、かゆみや痛みが現れたりすることもあります。
  • 男性
    無症状のことが多いです。尿道や前立腺に原虫が潜んで、炎症を起こすことがあります。
【 診断 】
  • 特有のおりもの
  • 鏡検
    おりものを顕微鏡で観察します。原虫が少なければ、見つからないこともあります。
  • 培養
    トリコモナス腟炎を疑うが、鏡検で原虫が見つからない時に検査します。結果まで1週間~10日かかります。
  • 核酸増幅法検査
    鏡検や培養で原虫が見つからない時に検査します。
    結果まで1週間かかります。

そのほか、子宮がん検診(頸部細胞診)や尿検査などで、偶発的に見つかることもあります。

【 治療 】
1.内服薬
  • チニダゾール500mg錠 1回4錠、1日内服
    ※1回の内服で済みますが、2024年発売中止予定。
    当院では現時点で2026年5月使用期限薬の在庫があります。
  • フラジール250mg錠 1回1錠、1日2回10日間内服
    ※内服中はアルコールの分解が遅くなり、腹痛や嘔吐、顔が赤くなるなどの副作用があらわれることがあるため、内服中~内服終了後3日は飲酒を避けましょう。
    ※内服薬は、妊娠3か月以内の服用はできません。
    ※内服中の授乳は、避けてください。
2.腟錠(腟座薬)

※内服と腟錠を併用することもあります

フラジール腟錠を1日1回7日~14日間ほど腟内に挿入します。

妊娠3か月以内や授乳中で内服ができないときに使用します。

【 治癒判定 】

2週間後に治ったかどうかの検査をします。

治療にあたってはパートナーも一緒に検査・治療することが重要です。

当院ではパートナーの検査・治療も行っています。

萎縮性腟炎

閉経後の女性に多くみられます。閉経後は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により腟粘膜が萎縮してうすくなったり、乾燥して粘膜が傷つき、出血しやすくなったりします。また、腟内の善玉菌(デーデルライン杆菌)が消失することで腟の自浄作用が弱まるため、雑菌が増えやすく、おりもの・においの原因となります。さらに、加齢によって性的興奮時にバルトリン腺(膣の左右にある分泌腺)などから分泌される潤滑液が少なくなるため、性交時の出血や性交痛の原因になります。

外陰部の皮膚もうすくなって乾燥するため、かゆみや痛み、尿がしみるといった症状が出ることもあります。

【 症状 】

出血、黄色~茶色のおりもの、におい、性交時痛

【 診断 】
  • 陰部の肉眼的所見、特有のおりもの
  • 鏡検
    おりものを顕微鏡で観察します。
  • 腟細菌培養
    腟炎がある場合に追加検査します。結果まで1週間かかります。
【 治療 】
  1. 腟錠(腟坐薬)
    エストリオール腟錠を1日1回、7日間ほど腟内に挿入します。
    ※腟炎がある場合はフラジール腟錠を併用します。
  2. 内服薬
    腟錠による治療が難しい場合に、2週間ほど行います。

※性交痛に関しては薬局・ドラッグストアなどで、ゼリーの購入をおすすめします。
水溶性で皮膚への刺激が少ないものが販売されています。

そのほか、クラミジア頸管炎、淋菌性頸管炎など性感染症が原因の場合もあります。

おりもの・におい対策のポイント

  • 洗いすぎない
    ビデの使い過ぎやシャワーや入浴の際に腟内を洗い過ぎると、善玉菌まで流れてしまい、腟内細菌叢(そう)のバランスが崩れます。腟内の自浄作用が弱くなり、かえっておりものが増えて、においます。
  • おりものシートをつけっぱなしにしない
    実はおりものシートには「防水機能」があるため、蒸れやすくなっています。長くつけたままでいると、雑菌が増えやすい環境となってしまいます。
  • ナプキンをつけっぱなしにしないさほど経血がなくても、1日3~4回くらいは交換しましょう。
    おりものの量が多いなどの理由から、ナプキンを使用する方がいますが、おりものシートに比べて、さらに吸水性が高く、ムレやすく、雑菌が増えやすい環境となってしまいます。

タンポン・月経カップの抜き忘れ

タンポンや月経カップを挿入した後、「抜くのを忘れてしまった」「抜いたかどうか、分からなくなった」「取り出せなくなった」などの理由から受診される方は、決して珍しくありません。

また、「おりもののにおいが気になる」ということで受診し、診察によって腟内に抜き忘れていたタンポンや月経カップが見つかることもあります。

タンポンや月経カップ内の経血に雑菌が大量に増えると、腟炎によって強い悪臭がします。ごくまれに、黄色ブドウ球菌による毒素が原因の「トキシックショック症候群(TSS:toxic shock syndrome)」という病気になる可能性もあります。TSSを発症すると、突然の発熱、嘔吐、めまい、下痢などが現れます。処置が遅れれば、最悪の場合には血圧低下によるショック症状で死に至ることもあります。

タンポンや月経カップを抜いたかどうか不安な場合、ご自身で確認することもできますが、ご自身でははっきりわからないことがあります。そのような場合には、ぜひ産婦人科を受診しましょう。

腟錠専用アプリケータ

当院では、自分で腟錠を腟内にスムーズに挿入するための専用アプリケータ 「エルトラストVA」の取り扱いがあります。

  • 腟錠を正しい位置まで挿入しやすい。
    挿入後すぐに腟錠が出てしまうことを防ぐため、薬がきちんと作用します。
  • 指で直接腟錠を挿入しないため、手がよごれにくい。
  • 長い爪やネイルを気にせず、薬を挿入できる。
  • 指で腟錠を挿入することによる感染のリスクがない。

※使い捨てです。6本660円で提供していますので、お問い合わせください。

外陰部のできもの・異常

代表的なものには、接触性皮膚炎、毛嚢炎(もうのうえん)・毛包炎、粉瘤(ふんりゅう)、バルトリン腺のう胞・膿瘍、尿道カルンクルのほか、性感染症の尖圭コンジローマ(せんけいこんじろーま)、性器ヘルペス・梅毒があります。

接触性皮膚炎(外陰部)

皮膚に何らかの刺激が接触することによって起こる皮膚の炎症で、いわゆる「かぶれ」です。デリケートゾーンの皮膚は、他の部位の皮膚に比べるとうすくて敏感で、いつも下着などで覆われるため、ムレやすい環境にあります。汗や皮脂も溜まりやすい場所で、さらに経血・おりもの(帯下)の接触もあると、かぶれを起こしやすくなります。デリケートゾーンの清潔と通気を保ち、原因となる刺激物質を避けることで症状の改善を図ります。

【 原因 】

刺激物質の皮膚への接触

【 症状 】

赤み、湿疹、かゆみ、ヒリヒリ感

【 治療 】
1.刺激物質の除去

通気性をよくして清潔にしましょう。

  • 下着を通気性のよいものに変える
  • 肌に合ったナプキンを使い、こまめに交換する
  • 通気性を妨げないタンポンを使う
  • おりものシートを必要以上に使い続けない
  • 洗剤や柔軟剤を変えてみる
  • デリケートゾーンは石けんで洗わずにシャワーで優しく洗う。ゴシゴシこすらない。
  • デリケートゾーン専用のソープを使う
  • 外陰部に付いた水分はすぐに優しく拭き取る
2.薬物療法

効果が不十分な場合には、ステロイド外用薬、保湿剤、抗ヒスタミン薬などを使用します。

毛嚢炎(もうのうえん)、毛包炎(もうほうえん)

陰毛の毛根を包んでいる部分(毛嚢・毛包)に小さな傷ができ、そこへ黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌、溶連菌、真菌(カビ)などの細菌が感染することによって発症します。ムダ毛の自己処理後、月経(生理)中に起こりやすく、ナイロンスポンジによる傷、発汗、ステロイド外用薬などもきっかけとなります。ただし、かゆみを伴うことは少ないです。デリケートゾーンの皮膚への傷や蒸れに注意しましょう。

【 原因 】

細菌感染

【 症状 】

赤く皮膚が盛り上がる(丘疹)、膿胞(膿が溜まった丘疹)、患部を触ると痛み

【 治療 】

抗生物質の服用

【 予防 】

締め付けの強い下着や服の着用を避ける、下着は綿素材にする、入浴後は丁寧に水分を拭き取る、排便後は傷に触れないように拭くなど

紛瘤

粉瘤とは、皮膚の中に袋状の組織ができ、古い角質(垢)や皮脂がたまった良性腫瘍です。身体のどこの皮膚にでもできるので、陰部にもできます。小さなしこりを触れ、次第に大きくなることがあり、圧迫や自然に破裂して臭いのある粘度の高い液体が出てくることがあります。

細菌が感染して化膿したり、老廃物による炎症が拡がると「感染性粉瘤・炎症性粉瘤」となったりすると、腫れて赤くなり痛みが出ます。軽い症状であれば抗生物質の内服で改善します。

ニキビに似ていますが、ニキビは毛穴が詰まったものであり、自然に治ります。一方で、粉瘤は一時的によくなっても、袋状の組織はそのまま残っているため、再発することも多いです。悪化すると膿瘍となり、抗生物質の内服のみでは改善せず、切開で膿(うみ)を出す処置が必要なことがあります。

再発を繰り返す、症状が強い場合には袋状の組織を完全に除去しないと治らないため、皮膚科や形成外科の受診をおすすめしています。

バルトリン腺のう胞 バルトリン腺膿瘍(のうよう)

バルトリン腺は腟入口部の左右にある分泌腺です。分泌液は性交時の潤滑剤として働きます。その開口部分が詰まって中に分泌液が溜まると、袋状の「バルトリン腺のう胞」となります。さらに、細菌による感染が起こり、膿(うみ)が貯留したものが「バルトリン腺膿瘍」です。

【 症状 】
  • のう胞
    痛みはないが、大きくなると違和感が現れます。
  • 膿瘍
    腫れや痛みにより立つ・座るといった動作が困難、局所の熱感、発熱
【 治療 】
  • のう胞
    無症状で日常生活に支障がなければ経過観察をします。貯留液の穿刺(せんし)することもあります。
  • 膿瘍
    穿刺により貯留した膿を吸引・排出します。抗生物質を投与することもあります。

※再発が多く、何度も繰り返す場合には、外科的手術(バルトリン腺開窓術・造袋術・バルトリン腺摘出を検討します。

※外科的手術が必要な場合には、対応可能な医療機関をご紹介します。

尿道カルンクル

尿の出口(外尿道口)にできる数mm~2cmの赤い良性腫瘍(ポリープ)で、閉経以降の女性にみられます。

【 症状 】

小さいと無症状ですが、大きくなってくると出血し、下着に血がついたり、排尿時に拭くときにトイレットペーパーに血がついたりします。軽い痛みや排尿障害となることもあります。

【 治療 】

症状がなければ、経過観察となります。

サイズが小さく、症状が軽ければ、ステロイド軟膏の塗布となり、サイズが大きく、軟膏で症状が改善しない場合や排尿障害がある場合には、泌尿器科で手術が必要になることもあります。

そのほか、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、梅毒といった性感染症による外陰部のできものについては、「性感染症ページ」にそれぞれ詳しく解説をしています。